税理士の転職
更新日:2024.07.30
公開日:2024.07.30
昨今のグローバル化によって、国際税務の注目度は高まっています。また、税務に関わる人材としてのキャリアアップにおいても身に付けておきたい分野です。
本記事では、国際税務の概要や重要性、役立つ資格などについて解説していきます。
目次
国際税務とは、個人・法人が国際取引をした際、税務面で取り扱う必要がある税務のことです。
企業が諸外国とビジネスする場合は、外国税額控除や消費税の課税有無など、国際税務の規程に対応する必要があります。
国際税務の需要が増している理由は、経済のグローバル化です。
個人・法人が海外進出もしくは日本に進出した場合、所得税・消費税・資産などの申告や納税者情報の交換などは国際税務の規程に準じて実施しなければなりません。規程に準じていない場合、二重課税などの国際税務に関するリスクが高まり、個人・企業は不利益を被っています。
また、法律の穴を狙って不正に利益を得ることを防止するため、各国税制や国際課税ルールを新設・改正し、公平な課税環境の構築が国際的に進められているのが現状です。
国際税務関連はこれからさらに複雑になることから、国際税務の需要はこれまで以上に増していくことが予想されます。
国際税務の業務内容は、次の3つです。
税務顧問とは、クライアントと継続した税務サービスを契約することです。
税務顧問の主な業務内容としては、税務代理や税務書類の作成、税務・経営の相談などが挙げられます。また、租税上のリスク回避、二国間の二重課税防止に向けた外国税額控除制度の適用なども実施します。
移転価格税制はクライアントが税務リスクを負わないように、適切な移転価格の策定をフォローする業務です。
移転価格税制の主な業務内容としては、グループ内取引の分析・評価や移転価格文書の作成・提出、移転価格調査対応、リスク分析の準備などが挙げられます。
海外の資産・投資家の所得税申告とは、海外資産および外国人投資家の所得税申告を代行する業務です。海外の資産・投資家の所得税申告の主な業務内容としては、海外の税制・条約の理解や海外の収入・支出の計算、申告処理の作成・提出などが挙げられます。
近年、投資目的で海外に不動産を所持したり、従業員が海外転勤したりする事例などが増えたため、税理士に各従業員の税務手続き対応や申告相談されるケースも増えてきました。
国際税務に従事するうえで知っておくべき制度・規定は、次の7つです。
租税条約は、二重課税の排除や脱税・租税回避への対応などを目的に制定された二国間条約です。租税条約を活用すれば税負担の軽減が可能ですが、活用するためには、国税への届出などをはじめ、適正な手続きが必要となります。
また、手続き時には取引先の協力も必要なため、早めに確認・着手しなければなりません。
タックスヘイブン対策税制は、軽課税国にある子会社などの所得を日本にある親会社の所得に合算して課税する租税回避防止を目的に設けられた制度です。
海外に子会社を設置する場合、経済活動基準を満たしている証明や、ペーパーカンパニーでないことを証明する資料を用意する必要があります。
税務調査時にこれら書類の提出を求められた際、提出できないと推定課税を受ける可能性があるため、注意が必要です。
外国税控除とは、国際的な二重課税を排除するために設けられた国内法の規定です。
日本企業は国内源泉所得および国外源泉所得のいずれも日本へ納税義務がありますが、現地でも国外源泉所得の課税対象となると日本との二重課税が生じてしまいます。
外国で納付した税額を一定要件のもと、法人税額の計算上で税額から控除する計算方法を規定しているのが、外国税額控除です。
日本法人が非居住者へ課税対象の支払いをする場合、非居住者に代わって日本に納税するため、源泉徴収する義務を負います。
非居住者の税率は原則、20.42%が適用されます。ただし、租税条約で軽減税率が設定されていることも多いため、都度租税条約を確認したうえで、必要書類を提出しなければなりません。
なお、日本法人が外国から支払いを受ける場合、外国側で源泉徴収されるため、日本法人は法人税申告時に、外国税額控除を申告するなどの対応を実施し、二重課税を排除する必要があります。
日本の法人税法の考えでは、原則的に海外出向者の給与は海外現地法人が全額負担しなければなりません。例外的に日本法人が出向者の給与を負担する場合、負担額は原則、国外関連者への寄付金として全額課税されます。
日本の法人税上、損金算入と認定されるため、海外勤務規定の整備・適正額分析などを通じて、費用負担の合理性を担保する必要があります。
過少資本税制は、日本法人が海外の関連企業から資金調達を受ける際、出資と貸付の比率が一定割合を超えた場合に貸付にかかる支払い利子の損金算入を認めない制度です。この制度を設けることで、租税回避を目的に不当な大きな貸付が実施されることを防止できます。
ただし、先進国で同じような税制を設けている場合が多いため、海外に進出する際は進出国に同等の制度がないか確認することが大切です。
移転価格税制は、企業が海外の関連法人と取引した際、移転価格を通常の取引価格と乖離した金額を設定すると、一方の利益を意図的に他方へ移転することを認めている制度です。
所得が国外に移転していると認定されている場合、取引価格を独立企業間価格に引き直して算定することで、国際的な税理の振り分けのゆがみを除去する目的で設けられました。]
国際税務に従事するうえで必要なスキルは、次の3つです。
国際税務は、海外のクライアント・パートナーとのコミュニケーションをとらなければならないため、英語の語学力が欠かせません。
また、国際税務の専門家としてビジネスチャンスを広げたいのであれば、中国語やヒンディー語など、英語以外の言語も習得しておくことをおすすめします。
国際税務の業務を遂行するためには、コンサルティングスキルが必要不可欠です。
ただし、コンサルティングスキルが高くても、クライアントと円滑なコミュニケーションが取れなければ信頼関係は構築できません。
そのため、国際税務に従事して活躍するためには、クライアントと信頼関係を構築し、円滑にやりとりできるだけのコミュニケーションスキルを磨いておく必要があります。
国際税務は海外のクライアントおよび、海外進出する日本のクライアントに向けて、最適な税務戦略を提案するのが仕事です。そのため、日本だけでなく、海外の税制知識も必要となります。
また、日本とは異なる法律・規則がある他、日本の法律と同様に変更されることもあるため、情報を常にアップデートしなければなりません。
そのため、学習意欲が高いことも国際税務に従事するうえで必要なスキルといえます。
国際税務に役立つ資格は、次の5つです。
それぞれ詳しく解説します。
国際税務に役立つ資格として挙げられるのが、税理士です。
税理士は日本の税法に関する知識が主ですが、日本人の海外での所得・資産の課税や、外国人の日本での所得・資産の課税など、国際税務に関する知識も必要な他、国際税務の条約・協定も理解しておかなければなりません。
以上の点から、税理士は国際税務として活躍するためには必要な資格です。
米国税理士(EA:Enrolled Agent)は、米国の税法に関する専門家のことです。日本における税理士資格といえば、わかりやすいかもしれません。
米国税理士の受験資格は18歳以上で、学歴・職歴関係なく受験できます。米国税理士を取得すれば個人・法人の米国連邦所得税の申告・相談を実施できる知識・スキルを証明できるため、米国の税法に強い国際税務の専門家を目指すのであれば取得しておくべき資格です。
米国公認会計士は、米国の会計・監査・財務に関する専門家のことです。米国公認会計士を取得すれば、米国内外の個人・法人の会計・監査・財務のサービスを提供できる知識・スキルを証明できます。
米国公認会計士は米国監査基準(US GAAS)や、米国会計基準(US GAAP)などに精通しているため、米国企業やその子会社と関わる際に役立ちます。
そのため、国際税務の専門家を目指す場合や、税理士資格取得後のキャリアアップを考えている場合には取得しておくべき資格の1つです。ただし、米国公認会計士試験は英語で受験しなければならないため、資格取得を目指すのであれば英語力も磨いておかなければなりません。
なお、米国公認会計士の英語表記は公認会計士を意味する「Certified Public Accountant」で、頭文字をとって「CPA」と略されますが、日本の公認会計士と混同しないように「USCPA」と記載されることもあります。
国際税務では、英語で国際税法・規則を読んだり、英語でクライアントなどとコミュニケーションを取ったりしなければなりません。そのため、国際税務の専門家として活躍していくためには、英語スキルが必須となります。
英語圏の企業・機関との取引・交渉に必要な英語力を証明する際におすすめなのがTOEICです。TOEICは、英語のビジネスコミュニケーションスキルを測るテストとして世界中で認知されています。そのため、高得点(最低でも700点以上)を取得しておけば、スムーズに会話できるレベルの英語スキルがあることをアピールできます。
国際税務の経験を活かせるキャリアパスは、次の3つです。
それぞれ詳しく解説します。
経験・スキルを活かして国際税務の対応をメインにおこないたいのであれば、国際税務の案件に力を入れている会計事務所にてマネージャーポジションを目指すのも1つのキャリアアップの方法です。
在籍している企業の規模にもよりますが、国際税務の平均年収は600万~1,000万円程度、マネージャー・シニアマネージャークラスであれば、年収1,000万~1,200万円前後も狙えます。
グローバル企業(外資系企業・海外拠点を持つ日系企業)の経理職に転職するのも、国際税務の経験を活かせるキャリアパスの1つです。
一般企業で国際税務の実務経験を積む場合、自社の事業に深く携われますが、習得できるスキル・ノウハウは限定的になるケースが少なくありません。
会計事務所で国際税務業務を経験した後にグローバル展開している一般企業に転職・勤務すれば、企業内税理士として幅広い業務に対応できるため、重宝される可能性が高まります。
ただし、企業規模によっては、国際税務に関する業務の比率が低い部署に配属されるケースも少なくありません。
そのため、求人内容を確認したり、希望する仕事内容にミスマッチがないか面接担当者に質問したりするなど、事前にしっかりと情報収集しておくことが大切です。
国際税務業務の実務経験を積んだ後、国際税務に対応できる税理士として独立する方法もあります。
海外進出・国際取引の増加により、国際税務の需要は高まっている一方、国際税務は現地税制や租税条約など、高度な専門知識が求められるため、国際税務を扱う事務所は少なく、国際税務に対応できる人材も不足しています。
そのため、国際税務に対応できれば、他事務所と差別化を図れる他、一般的な水準よりも顧問報酬を高く設定できるため、低価格競争から抜け出すことが可能です。
また、海外進出する国内企業だけでなく、日本市場に新規参入する海外企業も顧客対象となるため、独自の顧客層をターゲットできるといったメリットがあります。
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現職で国際税務を経験できない、もっと国際税務の対応をしたいと思う方は、一度転職エージェントにキャリア相談をしてみてはいかがでしょうか。
edit_note この記事を書いた人
一般事業会社の経理・財務・CFO候補に加え、監査法人・会計事務所への転職支援サービスも充実。転職成功事例や充実したサポート体制をお約束します。
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