税理士が会計事務所から企業の経理へ転職するメリットと注意点を解説

税理士の転職

更新日:2024.07.26

公開日:

税理士の代表的な勤務先は会計事務所や税理士法人などの専門サービスを提供する事務所ですが、近年では企業の経理部門で活躍する税理士も増えています。経理部門は税理士の知識や経験を活かしやすく、高い評価を受けることが可能です。ただし業務範囲や働き方などいくつかの違いがあるため、事前に把握しておかないと後悔することになりかねません。

本記事では、経理への転職を検討中の税理士の方に向けて、会計事務所と経理の違い、転職するメリットや注意点を解説します。

会計事務所で働く税理士と企業の経理との違い

会計事務所や税理士法人の業務と企業の経理業務は共通する部分もありますが、相違点も多くあります。税理士が経理への転職を考える場合、両者の違いを知っておくことが大切です。

業務内容・業務範囲の違い

会計事務所や税理士法人で働く税理士の主な業務内容は、クライアントの記帳や年末調整、税務申告や決算業務などの代行です。担当者がクライアント企業に定期的に訪問し、経営状況の確認や記帳指導、補助金の申請支援などをおこなう月次監査(巡回監査)も代表的な業務のひとつです。会計や税務の最適化を図るためのアドバイスやコンサルティングも提供します。

企業の経理部門では、自社の財務報告・資金管理・決算業務などを担当します。企業の経営戦略にもとづき、予算の編成や資金調達の計画を立てることもあります。また、内部統制や法令遵守のためのシステム整備なども業務範囲に含まれます。一方、会計事務所のように他社への訪問や税務アドバイス・コンサルティングなどをおこなうことはありません。

クライアントワークか自社業務かの違い

会計事務所では法人や個人などのクライアントに対してサービスを提供します。多様な業種や規模のクライアントと関わり、その要望に応じたサービスを提供することが求められます。クライアントごとに異なるニーズや問題に対処するため、広範な知識と柔軟な対応力が必要です。また、クライアントとの信頼関係を構築することも重要です。

企業の経理は、自社の業務にのみ携わります。自社が所属する業界や自社のビジネスモデルに詳しくなり、安定した業務環境の中で深い専門知識を活かして働くことが可能です。また、他部署と連携し、企業全体の運営に貢献する役割も求められます。

働き方や労働環境の違い

会計事務所はクライアントの要求に応えるために、しばしば長時間残業が発生します。とくに決算や税務申告の時期には長時間労働になりがちです。ただし閑散期には比較的余裕のあるスケジュールで働くことができるので、よくも悪くもメリハリのある働き方といえるでしょう。また、クライアント訪問や外部での業務も多く、リモートワークが許可されていることも多々あります。

一方、企業の経理部門では、比較的安定した働き方が可能です。経理にも繁忙期がありますが、会計事務所のように極端な長時間労働は少ない傾向があります。閑散期には定時で帰れることも多いでしょう。また、基本的に事務所内で業務にあたることが多く、外出する機会は限定されます。リモートワークが許可されていることもありますが、出社を原則としている企業はまだまだ多いです。

税理士が企業の経理に転職するメリット

税理士が企業の経理へ転職することで、自身のキャリアやライフプランに関して多くのメリットを享受できます。

幅広い経験を積める

会計事務所や税理士法人ではさまざまな業種のクライアントに関わりますが、クライアントの業務の一部を代行するケースが大半です。これに対して企業の経理業務は現金管理からはじまり決算や税務、資金管理や予算管理、税務調査対応など多岐にわたります。業務改善や内部統制の強化に携わることもあるでしょう。とくに、中小企業やベンチャー企業の経理では非常に業務範囲が広いため、総合的なスキルを身につけることができます。

キャリアアップの機会が増える

会計事務所では、所長をトップとして、役職があっても主任やリーダーなどポジションが限られています。大規模な税理士法人ではシニア・マネージャーやパートナーといった上位ポジションもありますが、ポジションに空きが出ることは少なく競争も激しいです。そのため、キャリアアップの機会はやや限定されているといえるでしょう。

企業の経理部門に転職することで、キャリアアップのチャンスが広がります。経理部門内での昇進だけでなく財務や人事・労務といった関連部署への異動や管理部門のトップ、CFOなど経営層へのステップアップの道もあります。

ワークライフバランスを改善しやすい

会計事務所では決算期などの繁忙期を中心として、長時間労働が求められるケースが多数です。担当のクライアントを受けもつため仕事を代わりに頼める人がおらず、有給休暇が取得しづらいケースも少なくありません。

企業の経理部門に転職することで、比較的安定した勤務時間を確保しやすくなり、ワークライフバランスの改善が期待できます。定時での退社や有給休暇の取得がしやすくなるため、プライベートの時間を充実させることが可能です。

福利厚生が充実している

会計事務所では社会保険などの最低限の福利厚生はあるものの、特筆すべき福利厚生は多くありません。これに対して、企業の経理は福利厚生が充実しています。

とくに大企業や上場企業は法定福利厚生に加えて住宅手当やリフレッシュ休暇など、独自の福利厚生が整っていることも多く、安心して働くことが可能です。税理士としてのスキルを活かしながら、よりよい環境で働くことができるのは大きなメリットです。

雇用や収入が安定する

企業の経理部門に転職することで、雇用や収入の安定が期待できます。小規模経営が多い会計事務所に比べて経営基盤が安定しているため、整理解雇や倒産のリスクが低く、長期的に安定した収入を得ることが可能です。また、企業によってはボーナスや昇給の制度が整っているため、収入面での安定にも期待できます。

税理士が企業の経理に転職する際の注意点

多くのメリットがある経理への転職ですが、気をつけたいポイントもあります。事前に注意点を把握しておくことで転職のミスマッチを回避できます。

資格を直接活かせない

会計事務所でクライアントの税務申告代行や税務相談などに対応するには税理士資格が必要なので、資格をダイレクトに活かすことができます。

しかし、企業の経理部門で担当するのは自社の業務に限られるため、税理士資格が必要なわけではありません。税理士としての知識や経験は活かせますが、税理士資格をフルに活用できない点は理解しておく必要があります。

税理士としての知識やスキルを磨く機会が限られる

企業の経理部門に転職すると、税理士としての専門的な知識やスキルを磨く機会が減少する可能性があります。

企業では税務以外の業務が多くを占めるため、税理士としての知識を深めるための実務経験は積みにくい環境です。税務専門の部署がある企業もありますが、主に大企業なので、要求水準が高く税理士であっても簡単には採用されません。将来的に独立開業を目指すなどキャリアプランによっては、経理よりも会計事務所での経験のほうが有利にはたらく可能性があります。

業務の裁量権はほとんどない

会計事務所では税理士自身が担当のクライアントに対して裁量権をもってサービスを提供しますが、企業の経理部門では業務の裁量権はほとんどないことが一般的です。

上司や経営陣の指示に従って業務を遂行することが求められるため、自分の意見や判断を反映させる機会が限られることがあります。とくに自分の裁量で業務を進めたいと考える方には、この点がストレスになるかもしれません。

転職のパターンによっては年収が下がる

税理士は高度な専門性を活かして高い報酬を得ることも可能な専門職なので、企業の経理へ転職することで年収が下がる場合があります。

たとえば、大手税理士法人から中小企業やベンチャー企業へ転職するケースでは、年収が下がるケースが一般的です。もちろん転職は年収だけがすべてではありませんが、年収面で不満を抱えてモチベーションが下がることは多々あります。転職の際には給与条件をしっかり確認することが重要です。

経理以外の業務を担当することもある

企業の経理部門では、経理以外の業務を担当することもあります。たとえば総務や人事的な業務を経理部門でおこなうことは珍しくありません。この場合、経理以外の知識やスキルが必要となり、税理士としての専門性を活かせないといった不満の原因になります。とくに中小企業やベンチャー企業ではよくあることなので、応募先の業務内容は詳細まで確認しておきましょう。

企業の経理部門における税理士の採用ニーズ

経理部門における税理士の採用ニーズは高く、チャンスが大きい市場です。ただし管理職候補として期待されることも多いため、マネジメントスキルやコミュニケーションスキルも磨く必要があります。

税理士資格の有資格者、科目合格者ともにニーズが高い

経理業務は、一定の専門性が求められるため無資格の新卒者が従事するのは難しく、社内での育成も難しいため、中途採用者のニーズが高い職種です。即戦力採用を基本とする中小企業やベンチャー企業はもちろん、一般に新卒採用主義の大企業や上場企業であってもニーズがあります。税理士のような専門性が高い人材はなおさら求められています。

また、科目合格者も同様に、企業にとっては貴重な存在です。科目合格者はすでに一部の高度な知識をもっているため、現場での業務を迅速に理解し、即戦力として活躍できるポテンシャルがあります。

将来の管理職候補として期待される

企業の経理部門において、税理士は将来的な管理職候補としての期待もあります。税理士の知識と経験は経理業務全般において非常に有用で、税務に限らず広範な業務を担当することができます。このため将来的に部門全体を管理する立場に立てる可能性が高いと判断されやすいでしょう。とくに、中小企業やベンチャー企業では管理職候補として期待されることが多くあります。

コミュニケーション能力の高い人が求められる

企業の経理部門では、税務や会計の専門知識があるだけでなく、ほかの部門や外部の関係者との円滑なコミュニケーションが必要です。とくに税務や会計に関する説明や報告を適切におこなうためには、複雑な情報をわかりやすく伝える能力が欠かせません。

また、経理部門は企業全体の業務と密接に関わるため、他部門との連携が不可欠です。このため、コミュニケーション能力の高い人材は、チーム内外での円滑な業務遂行に貢献できると評価されます。

税理士が経理へ転職する際のポイント

経理への転職を成功させるには、以下のポイントを意識して転職活動を進めることが大切です。

なぜ企業の経理で働きたいのかを明確にする

まずは企業の経理へ転職したい理由・目的を明確にすることが重要です。これらを明確にすることで面接時に自分の意欲や目標をしっかりと伝えることができ、採用担当者に対して強い印象を与えられます。また、理由・目的に合った転職を実現することで、転職後のミスマッチを回避することが可能です。

企業の経理で活かせる経験やスキルを整理して伝える

これまでの税理士経験のなかで、企業の経理部門で活かせる経験やスキルを整理して伝えることも重要です。たとえば税務申告や税務調査の対応経験、税務コンサルティング業務で得た知識などを具体的に説明し、それがどのように経理業務に役立つかを伝えましょう。また、経営分析や予算管理など、広範なスキルもアピールポイントになります。

これらのスキルが企業の経理部門でどのように貢献できるかを具体的に示すことで、自分の強みを効果的にアピールできます。

税理士や管理部門に詳しい転職エージェントに相談する

税理士が企業の経理部門へ転職を考える際には、転職エージェントに相談することをおすすめします。とくに税理士や管理部門のキャリアに詳しい転職エージェントは企業のニーズや市場動向に精通しているため、適切なアドバイスを受け取れます。応募書類の添削や面接対策のサポートなども受けられるため、採用の可能性が高まるのも魅力です。

経理に転職したい税理士におすすめの転職エージェント

最後に、経理への転職を考える税理士におすすめの転職エージェントを紹介します。

ハイスタ税理士

ハイスタ税理士は、税理士・科目合格者の転職支援に強みをもつ転職エージェントです。税理士の業務内容や働き方に詳しく、会計事務所から企業経理への転職支援でも実績があります。とくに経験豊富なミドル層の税理士におすすめです。

公式サイト:https://hi-standard.pro/tax/

BEET-AGENT

BEET-AGENT

BEET-AGENTは、経理や財務などの管理部門系職種に特化した転職エージェントです。管理部門のキャリアに詳しいアドバイザーが求職者と採用企業の両方を担当する両手型のサポートなので、ミスマッチのない転職につながります。

公式サイト:https://beet-agent.com/

MS Agent

MS Agent

MS Agentは、管理部門と士業特化型の転職エージェントです。上場企業の約70%以上との取引実績があるため、上場企業の経理部門を希望する方におすすめします。税理士としての高度な専門性を活かせます。

公式サイト:https://www.jmsc.co.jp/

ジャスネットキャリア

ジャスネットキャリア

ジャスネットキャリアは、会計人材のキャリアを専門に支援するのがジャスネットキャリアです。ライフステージにあわせた柔軟な求人紹介をおこなっているため、ワークライフバランスの改善や育児との両立など希望に合ったキャリアが見つかります。

公式サイト:https://career.jusnet.co.jp/

マイナビ税理士

マイナビ税理士では税理士や科目合格者のキャリアを支援しています。業界専任のキャリアアドバイザーが求人紹介から内定獲得まで一貫してサポートする安心のサービスです。とくに若手の支援を得意とするため、20代・30代の税理士におすすめします。

公式サイト:https://zeirishi.mynavi-agent.jp/

REXアドバイザーズ

REXアドバイザーズは、税理士・会計士・経理・財務に特化した転職エージェントです。シニア・マネージャークラスの支援で実績が高いため、経験豊富な税理士の転職では利用を検討しましょう。経歴に見合ったポジションでの転職に期待できます。

公式サイト:https://www.career-adv.jp/

まとめ

企業の経理では会計事務所よりも幅広い業務経験を積むことができ、キャリアアップの機会も豊富です。一方で、税理士の専門性を高めにくく、業務の裁量権もほとんどありません。自身のキャリアプランと照らして経理への転職が最適かどうかを判断しましょう。

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ハイスタ税理士

一般事業会社の経理・財務・CFO候補に加え、監査法人・会計事務所への転職支援サービスも充実。転職成功事例や充実したサポート体制をお約束します。

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