公認会計士の転職
更新日:2022/10/26
公開日:2022/05/01
公認会計士のキャリアは、監査法人内での昇格を目指す、転職して別の業務経験を積みながらキャリアアップを図るなど複数の選択肢があります。中でも公認会計士からの人気が高いのがコンサルティングファームへの転職です。
監査法人から転職する場合は基本的に未経験業務となるため採用ハードルは決して低くありませんが、なぜコンサル業界への転職を目指すのでしょうか?
この記事では公認会計士がコンサル業界に転職するメリット・デメリット、コンサルタントに求められるスキルや経験、コンサルティングファームの種類などについて解説します。
目次
公認会計士のキャリアは監査法人内でのステップアップを目指すのが王道とも呼べる道ですが、あえてコンサル業界に転職する人も多くいます。なぜ公認会計士はコンサル業界へ転職するのしょうか?
監査法人による違いはありますが、基本的に監査法人では以下のような職階が設けられており、昇格すると年収も上がる仕組みになっています。
スタッフからシニアスタッフへは、一般的に3~4年の経験年数を積めば昇格します。シニアスタッフの経験を5年以上積むとマネージャーへの道も開けますが、マネージャーはいわば一般企業における中間管理職です。
自動的に昇格できるわけではなく、シニアスタッフの中から選ばれる形になります。
さらに難しいのがパートナーへの昇格です。パートナーには共同経営者という意味合いが含まれており、出資者として債務に対する連帯責任を負う立場になります。パートナーに昇格できる人は限られているため、今の組織内でパートナーになれないと感じたタイミングで転職を考えるのはよくあるケースです。
監査法人のマネージャークラスから転職すると一般に年収は下がってしまうのですが、コンサルタントとして転職した場合は維持できるケースが多いため、コンサルを選ぶ人もいます。
ほかにも「監査業務にやりがいを感じなくなった」という理由でコンサルを選ぶ公認会計士がいます。監査業務は複雑な業務ですが、文書化業務など地道な作業も多くあります。クライアントには感謝されるというより嫌な顔をされる仕事だから辛いと感じる人もいるようです。
また将来的なキャリアを考えたときには監査業務だけでは実務スキルが限定されることもあり、ほかのスキルを身に付けたいと考えるようになります。その際に候補に挙がるのがコンサル業務です。
求職者がいくらコンサルタントとして転職したいと考えても、公認会計士を求める採用側のニーズがなければ転職は成立しません。しかし昨今のコンサルティングファームは公認会計士のニーズが大きい状況で、積極採用の傾向が見られます。
その理由として人材不足が上げられます。働き方改革の影響で企業がビジネスプロセス改善を図るケースが増えたのにともない、コンサルのニーズが高まっています。
プロジェクトが急増したためコンサルティングファームでも高い専門性を持った多様な人材を求めていますが、中でも会計の知見をもつ人材が不足しています。公認会計士の転職市場全体で見たときも昨今は売り手市場にあるため、なかなか人材を確保できないファームが多くなっています。
会計の専門知識がある公認会計士は希少価値が高い人材として採用側から見たときに魅力的です。未経験採用にも積極的で、大手コンサルティングファームでも中途採用者に対して広く門戸を開いています。
公認会計士の知見がコンサル業務に活かせるといっても、公認会計士とコンサルタントは全く別の職業です。監査が今あるものを監査基準や会計基準に照らして評価する仕事なのに対し、コンサルは将来に対して仮説を立てて検証していく仕事です。
これまで通りの考え方をそのまま利用できるわけではないため、適性がない人は苦労するでしょう。そこでまずは自身の適性を確認することが大切です。
コンサルティングとは、経営課題を解決するためのアドバイスを行い、実行をサポートする仕事です。公認会計士が行うコンサル業務には次のようなものがあります。
コンサルタントに求められるのは問題解決能力や論理的思考能力、環境適応能力、高度なコミュニケーション能力です。
コンサルタントはクライアントの悩みを聞き出したうえで根本的な問題を発見し、解決策を提示、実行を支援するのが役割です。監査業務は問題の解決ではなく問題の指摘という側面が大きいため、監査法人から転職する場合は問題解決能力が不足しているケースが少なくありません。
クライアントに対して論理立てて説明し、納得してもらう必要があるため、論理的思考能力も非常に重要です。
またクライアントの考え方や事業内容はさまざまであり、社会の状況に応じてニーズも変化していきます。凝り固まった考え方では対応できないため、環境の変化に適応する能力が必要です。
クライアントの本音を引き出すためのコミュニケーション能力も不可欠なスキルです。公認会計士は試験勉強に没頭したためにコミュニケーションスキルを磨く機会がなかった、もともと内向的な性格だったなどのケースも少なくないですが、コンサル業界では高度なコミュニケーション能力が求められます。
公認会計士がコンサルタントに転職する場合には、これらの能力と財務・会計の知識を経営課題の分析や解決策の立案に活かすことが求められるでしょう。基本的に即戦力としての採用なので、コンサルタントになってから能力を磨くのではなく、現職を通じて磨いていく意識がなければ転職は難しいと考えられます。転職の面接でも能力の有無をチェックされます。
コンサルタントとしての適性があれば、公認会計士の選択肢は広がります。以下では具体的にどんなコンサルティングファームへ転職できる可能性があるのかを解説します。
監査法人からの転職先として、もっとも現実的でリスクが少ないのが財務・会計系(FAS系)のコンサルティングファームです。Big4系のFASに転職するケースが一般的で、年収も維持できるケースが多くなっています。
FAS系では財務諸表や資産状況の調査・分析などお金の視点から経営改善を図る業務を行います。財務デューデリジェンスや企業価値評価、内部統制といった公認会計士としての知識と経験を活かしやすいです。
税務面でのアドバイスを求められるケースも多いので税務の勉強にもなります。将来的に独立を視野に入れている公認会計士は税務経験が必須なので、その意味でも人気がある転職先です。
転職活動の際には、英語力やIFRS関連のアドバイザリー経験があると有利にはたらきます。監査法人のアドバイザリー部門での経験があれば即戦力として採用の可能性は一気に高まります。
経営状況の悪化に直面した企業の支援をするのが企業・事業再生系のコンサルティングファームです。金融機関との資金繰りの交渉や事業計画の立案、事業再編のためのM&A支援 などを行います。
企業・事業再生系はクライアントとじっくり向き合える機会が多いためやりがいを感じやすく、貢献したい気持ちが強い人に向いています。地方企業の支援にあたるケースが多いので出張も頻繁にあります。税理士や弁護士などほかの専門家とチームを組むことが多いので、刺激を受けて成長できる環境に身を置けるでしょう。
それほど多いパターンではありませんが、戦略系コンサルティングファームへ転職する公認会計士もいます。基本的に大手企業を相手に、新規事業の立ち上げや海外進出、M&A案件などを支援する業務を行います。
戦略系でのミッションは、クライアントに付加価値を与えることです。財務分析に関するスキルは有効ですが、そのほかに公認会計士のスキル・知識を直接活用できる場面は少なく、監査法人時代の考え方とは180度変える必要があるとも言われています。
そのため監査法人だけのキャリアではそもそも応募条件を満たさないケースも多いです。
戦略系も人材不足なので未経験者に対して門戸を開いているケースがありますが、その場合は20代から30代前半までにチャレンジするのがよいでしょう。語学力が必要で学歴要件もあるなど採用ハードルが高い点は覚悟しておくべきです。明確な回答がない題材に対する仮説を展開して論理的に回答する「ケース面接」への対策も必要となります。
公認会計士が独占業務である監査に従事できるのは監査法人です。そのため監査法人でキャリアを貫くのが自然なようにも感じますが、あえてコンサル業界に転職するメリットはあるのでしょうか?
コンサルティングはクライアント企業の経営に影響を与える責任の大きな仕事です。プレッシャーはありますが、その分やりがいや達成感を得やすく、クライアントから感謝されることも多くあります。
監査法人で長く勤務していると、監査業務に飽きた、やりがいを感じなくなったといった理由で仕事を苦痛に感じてしまう人がいます。そのようなケースであれば刺激的な環境の中で自身の能力を発揮できるコンサル業務のメリットを感じられるでしょう。
監査業務が独占業務であること、景気に善し悪しに左右されにくいこともあって、監査法人で勤務した場合の年収は総じて高めです。そのため監査法人から転職する場合は年収がダウンするケースが多くなります。
しかしコンサルティングはクライアントの収益性を向上させる仕事なので、今あるものに対する評価を行う監査よりも高年収に期待できます。
監査法人からの転職で年収が上がる可能性があるのは基本的にコンサルへの転職だとも言われており、年収にこだわりがある方には大きなメリットとなるでしょう。
コンサル業務は定型的な作業に従事する仕事のように時間や場所で管理するよりも、業務の進め方などについてコンサルタント自身に広い裁量権を与えたほうが能力を発揮できる仕事です。
そのためフレックスタイム制や在宅勤務制度などを採用し、時間や場所にとらわれずに働けるケースが多くなります。
時間や場所で厳格に管理された職場では、長時間労働による健康の悪化やライフイベントによる離職などが発生するリスクがあります。しかし時間や場所にとらわれない働き方をすることで、工夫次第では業務の効率化やワークライフバランスの維持にもつながる可能性があります。
コンサル業界に転職するには以下のデメリットもあります。
コンサルティングファームは基本的に忙しい職場が多いです。競争が激しい業界ですし、答えのない経営課題に向き合う仕事なので何かをやれば終わりということもありません。したがって、ハードワークになりやすい点は覚悟しておく必要があります。
もっとも、労働環境に配慮したコンサルティングファームもあるので、どこへ転職しても必ずハードワークになるわけではありません。このあたりは転職活動に際してよく確認しておくべきでしょう。面接で直接は聞きにくい事項なので、転職エージェントを通じて確認することをおすすめします。
監査業務は景気が悪化したからといって監査義務がなくなるわけではないため、基本的に景気の変動の影響を受けません。一方のコンサルは景気によってクライアント企業の課題が変動するため、コンサルタントの取り扱い業務も変わります。
たとえば好景気のときにはIPOやM&Aの案件が多く、不況のときは事業再生案件が増えるといったイメージです。そのためコンサルタントには幅広い知識や経験、適応能力が問われることになり、その意味でも非常に難しい仕事だといえます。
コンサル業務はプロジェクト形式で進むため繁忙期と閑散期の差が大きくなります。プロジェクトの期間内は睡眠もままならないケースも多く、毎回が正念場のような緊張感があります。
閑散期にはある程度の余裕も生まれますが、繁忙期の反動がかえって心身に負担を与える場合があるでしょう。1年を通じて波のない業務に就きたいと考える方には向いていないかもしれません。
もっとも、逆の角度からいえば忙しいときは思い切り働き、忙しくないときはゆっくり休むというメリハリはつけやすい環境ともいえます。
コンサル業界へ転職を果たしても、成功したといえるかどうかは人により異なります。中には失敗したと感じて監査法人に戻ってくるケースもあるため、転職活動は慎重に進めるべきです。特に以下の点は失敗が多い事項なのでよく確認しておきましょう。
コンサルティングファームにもさまざまなタイプがありますが、監査法人とは企業風土が異なるケースも多いため、事前の確認が必要です。企業風土によっては居心地が悪い、人間関係がうまくいかないなどの問題が発生する可能性があります。
たとえば監査法人にいると先輩が丁寧に指導してくれたのに対して、コンサルティングファームではそのような指導は受けられずに苦労するというケースも少なくありません。
また監査法人では口数が少なく真面目な人が多かったが、コンサルティングファームでは体育会系でギラギラした印象の人が多いと感じるケースもあります。
転職後に従事する業務や案件の規模は転職活動における要確認事項のひとつですが、きちんと確認せずに転職を決めてしまう人が意外と多くいます。よくあるのが、
などの失敗です。
コンサル業界へ転職する際はワクワクした気持ちが先立ってしまい、実際の業務内容の詳細を確認するという基本を忘れがちですが、不満のもとになります。少なくとも最終面接までにはよく確認しておきましょう。
転職した後に同僚たちが続々と退職する姿を目にしたことで、実は不満分子の多い職場だと気づくのもコンサルティングファームへの転職で見られる失敗パターンです。この失敗を防ぐには、転職する前に定着率を確認しておく必要があります。人の出入りが激しい職場は、ハードワークや経営者の方針など何らかの原因があるケースが大半です。
年代別の比率も確認しておきましょう。ベテランばかりが所属しており、若手が少ないなどのケースは、若手が育ちにくい原因があると考えられます。
コンサル業界へ転職することでどんなキャリアを築けるのかを確認しておかないと、転職する意味が薄れる可能性があります。たとえば将来独立したいというキャリアプランがあり、専門性が高い領域を扱うファームへ転職した場合に、専門的すぎたために独立に必要な経験が積めない可能性があります。
コンサルティングファームでキャリアを完結するケース、さらに転職して事業会社の企画職で経験を活かすケース、ベンチャー企業の役員を目指すケースなど多様な選択肢があります。
漠然と転職を決めるのではなく、最終的にどんなキャリアを形成したいのかを設定したうえで、そのためにコンサル業務を経験するという逆算的な思考を持つことが大切です。
まずは、公認会計士の転職活動で利用すべき転職エージェントを紹介します。
会計事務所・監査法人への転職など、公認会計士の転職支援に特化した転職エージェントサービス。
弁護士向け転職支援サービス『NO-LIMIT』で士業事務所とのネットワークと専門性を駆使し、専任のキャリアアドバイザーがあなたの転職を最後までサポートします。
公式サイト:http://hi-standard.pro/
公式サイト:https://cpa.mynavi.jp/
「マイナビ会計士」は会計士・試験合格者・USCPA専門の転職エージェントです。手厚いサポートと質の高い紹介を受けられると評判で、公認会計士がまずは利用を検討するべきエージェントの筆頭となります。
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求人傾向としては、コンサルティングファームへの転職実績が高く、経験の少ない若手公認会計士や女性公認会計士の個別の悩みにそった転職支援にも強みがあります。
公式サイト:https://www.jmsc.co.jp/
「MS-Japan」(MS Agent)は管理部門・士業の転職に特化した転職エージェントです。管理部門・士業の登録率・転職相談率No.1と特化型エージェントの中で特に高い実績があります。
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求人傾向としては、一般事業会社の経理・財務などのほか税理士法人・会計事務所への転職にも強みがあります。大手では扱っていない比較的小規模の法人・事務所やベンチャーまで幅広くカバーしているのも特徴です。
公式サイト:https://career.jusnet.co.jp/
「ジャスネットキャリア」は公認会計士・税理士・経理の転職支援に特化した転職エージェントです。業界特化型であるため専門的なアドバイスができる点、独占求人が多い点が強みであり、公認会計士の利用率も高くなっています。
担当者は現場とのコミュニケーションを密にとっているため、現場の意向を反映したミスマッチの少ない提案を受けられます。将来的なキャリアプランの提案力にも定評があるので、自分では考えなかったキャリアの道筋も広がります。
求人傾向としてはコンサルティングファーム・シンクタンク、USCPA保有者向けの求人が豊富ですが、監査法人や会計事務所も万遍なく扱っています。
昨今、公認会計士の転職先としてコンサルティングファームを選ぶのは珍しくないケースです。特にFAS系は公認会計士の知見を活かしやすく、リスクが少ない選択肢なので興味のある方は検討してみてもよいでしょう。
ただしコンサル業界での仕事は監査とは異なる点が多いため、会計業界や公認会計士に精通した転職エージェントに相談して慎重に転職活動を進めることをおすすめします。
edit_note この記事を書いた人
一般事業会社の経理・財務・CFO候補に加え、監査法人・会計事務所への転職支援サービスも充実。転職成功事例や充実したサポート体制をお約束します。
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