公認会計士の転職
更新日:2022/10/26
公開日:2022/05/30
近年、公認会計士の転職市場では、大手監査法人から中小監査法人へ転職するケースが多く見られます。分業制の大手と異なり幅広い経験を積めるためスキルアップにつながることなどが理由ですが、気になるのは「年収がダウンしないか?」ではないでしょうか。
結論を述べると、中小監査法人へ転職しても年収が下がらないケースが多数あります。それどころか、大手同等の年収を提示する法人もあり、意外にも満足のいく年収を得られる可能性が高いのです。
大手監査法人と比べて組織規模が格段に小さいはずの中小監査法人で、なぜ高い年収を得ることができるのでしょうか。
この記事では中小監査法人の年収をテーマに、年収が高い理由や年収アップを期待して転職する際の注意点などを解説します。
目次
中小監査法人への転職を考える際、気になる項目のひとつが年収です。中小監査法人で働く公認会計士の年収はどのくらいなのでしょうか?
まずは令和2年賃金構造基本統計調査から公認会計士の年収を算定してみます。中小監査法人の規模を「10人~99人」とすると、年収は562万1,900円でした。なお、このデータは税理士も含むため、単純に公認会計士のみの年収ではありません。
区 分 |
10~99人 |
||||||
年齢 |
勤続年数 |
所定内実労働時間数 |
超過実労働時間数 |
きまって支給する現金給与額 |
年間賞与その他特別給与額 |
年収換算(千円) |
|
公認会計士,税理士 |
48.5歳 |
11.4年 |
171時間 |
5時間 |
407.3(千円) |
734.3(千円) |
5621.9 |
※参考:令和2年賃金構造基本統計調査|職種別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額
中小監査法人の年収は思ったより低いと感じた方も多いかもしれません。ただし中小監査法人の場合は法人規模やクライアント数にばらつきが大きく、年収も幅があります。そのため実態に近い年収を換算するのが難しく、実際にはもっと年収が高い法人も多数あります。
なお、中小監査法人の求人を確認すると、600万円~800万円ほどの年収提示が多く見られます。平均的には750万円前後、780万円ほどが中央値です。
監査法人で働く公認会計士の年収は職位によって異なります。職位ごとの年収は以下のようになり、職位が上がると年収も大きく上がります。
中小監査法人も大手監査法人も職位ごとの年収目安に大きな違いはありません。入所5年目くらいまでにあたるスタッフクラスだと400万円~、パートナーにまで昇進すると最低でも1,500万円程度、2,000万円~3,000万円稼ぐ人も珍しくありません。
先ほどと同じ賃金構造基本統計調査で「1,000人以上」規模の年収も確認できます。これは大手監査法人に該当する規模です。1,000人以上規模では年収換算すると870万3,400万円となりました。
区 分 |
1,000人以上 |
||||||
年齢 |
勤続年数 |
所定内実労働時間数 |
超過実労働時間数 |
きまって支給する現金給与額 |
年間賞与その他特別給与額 |
年収換算(千円) |
|
公認会計士,税理士 |
40.9歳 |
13.2年 |
127時間 |
1時間 |
670(千円) |
3647.1(千円) |
8703.4 |
※参考:令和2年賃金構造基本統計調査|職種別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額
これだけ見ると大手監査法人と中小監査法人の年収差は非常に大きいように感じます。ただし実際にはデータほどの差はなく、大手監査法人と同等の年収を得られる中小監査法人も少なくありません。
公認会計士の転職先には、監査法人のほかに事業会社やコンサルティングファーム、投資銀行などがあります。年齢やスキル、役職などによって差があるため一概に比較するのは難しいですが、各転職エージェントの分析による目安は以下の通りです。
国税庁の民間給与実態統計調査によると、令和2年における給与所得者の平均給与は433万円でした。中小監査法人で働く公認会計士平均年収は750万円ほどなので、一般の給与所得者と比べると大きな差があることが分かります。
監査法人で非常勤職員として働く場合の報酬は時給で計算されます。中小監査法人の時給は6,000円~7,000円が相場です。大手監査法人の非常勤も4,000円~,5000円ほどと高い時給を得られますが、中小監査法人ではそれを上回ります。
中小監査法人ではクライアント規模・数が大手監査法人と比べて見劣りするケースが多く、それゆえに年収も大きく下がるのではないかと思われがちです。しかし実は中小監査法人の年収は決して低くありません。法人によっては大手以上の年収を得られる場合があります。
中小監査法人の平均年収は
でした。公認会計士の年収は職位による差が大きいものの、一般の給与所得者と比べると大きな年収を手にできます。
また近年は大手監査法人と同等またはそれ以上の年収を提示する中小監査法人もあり、年齢や経験によってはかなりの高年収を得ることが可能です。このように中小監査法人の年収が高いのには以下のような理由があります。
2015年の東芝不適切会計問題をきっかけに大手監査法人が監査先の選別化を図るようになったことで、中小監査法人も上場企業の監査を担当する機会が増え、取引数が上昇しました。2021年には219社の上場企業が監査法人の異動を発表しており、大手から中小監査法人への異動が最多(92社)となっています。こうした背景から、中小監査法人の人材不足が加速しています。
<調査結果(要旨)>
1:2021年(1月~12月)に会計監査人(監査法人)の異動に関する適時開示を行った上場企業は219社となり、前年(142社)比で54.2%増となった
2:規模別異動動向では「大手」から「中小」が92社(構成比42.0%)で最多
3:退任した監査法人のうち、7割を大手の四大監査法人が占めた
4:「監査報酬の増加」を背景にした異動の割合が64.0%(前年44.0%)で増加傾向に
引用元:PR TIMES| 2021年は監査法人の異動が急増 トレンドは「大手から中小」
また、もともと公認会計士試験合格者の約40%が大手監査法人に就職するなど新卒者の定期採用では大手監査法人に人気が集中します。そのため中小監査法人は定期採用できる人数が限られ、常に人材不足状態にありました。
加えて商機が拡大したたことでさらに人材不足となったため、中小監査法人では高い年収を提示して公認会計士を確保する必要性が増しているのです。
中小監査法人では、大手と比べて効率的に監査報酬を得ています。結果的に従業員の給与も上げやすく、年収が高くなるのです。
大手監査法人は提携先である海外ファームからの要請が厳しく、監査工程が多数あります。加えて先の東芝不適切会計問題から、より高い監査品質を求められるようになりました。
これに対して中小監査法人では海外ファームからの厳しい要請がなく、形式的な文書化業務も最低限に抑えているため、効率的に監査手続きを進めることができます。
また大手監査法人では激務ゆえに退職者も多く、主査や重要科目の担当者以外は新人会計士などで構成されることも多いため、仕事がどうしても遅くなります。これに対し中小監査法人では定期採用による新人の確保が難しい分、自然と中堅・ベテランの会計士が多くなります。
中堅やベテラン会計士は監査手続きに慣れていますし、新人に対する指導も発生しないため、仕事を効率よく進めることができています。
大手監査法人は一等地に事務所を構えており、大がかりな監査になるため監査スタッフ以外の人員も多数必要です。そのため家賃や人件費などの間接コストがかかります。海外ファームへの提携料も高額です。
中小監査法人ではこのような間接コストが少なく抑えられるため、その分を従業員の年収に反映させることができます。
賃金構造基本統計調査によると大手監査法人の平均年収は約870万円と、データ上では中小監査法人より300万円以上高い水準です。
この点、マネージャークラス以上の人員が平均年収を押し上げているとの見方もできますが、近年では大手監査法人でマネージャークラス以上に昇進するのは年々難しくなっています。
ライバルが多いうえに上位の役職者が詰まっていてポジションに空きがなく、スタッフ・シニアスタッフクラスにチャンスが巡ってこないからです。そのため、実際には大手監査法人で働いていても昇進できず、高年収を得ることは難しい会計士が多くいます。
一方、中小監査法人では組織が小さいため大手に比べて昇進しやすいという特徴があります。ポジションに空きがなければ作ってくれるなど、柔軟に対応してもらえるケースもあります。
パートナーに昇進できれば結果的に年収も大きく上がる可能性があるため、大手監査法人を退職し、中小監査法人で昇進を狙う人は少なくありません。
ここで、中小監査法人の採用ニーズを確認しましょう。中小監査法人へ転職できるチャンスはどの程度あるのでしょうか?
中小監査法人では人材の募集を積極的に行っています。大手監査法人や事業会社などでは年齢が若い人ほど有利になりますが、中小監査法人では年代を問わず採用ニーズは高いです。
特に大手監査法人からの転職であれば即戦力となるため、採用される可能性はかなり高いといえます。実際、中小監査法人では大手監査法人出身者が多くいます。
大手監査法人の場合、法人ごとに社風は多少違いますが、規模やクライアント数などある程度似通った特徴があります。そのためどの法人を選んでも、合わない人には合わないという可能性が高いでしょう。
一方、中小監査法人は従業員数やクライアント数・規模などはさまざまで、法人ごとに特色が異なります。自分にフィットする求人を見つけられる可能性が十分にあると考えられます。
中小監査法人へ転職すると、高年収を得られる可能性以外に以下のようなメリットもあります。
中小監査法人は大手と比べて小規模なクライアントを担当するため、担当社数が圧倒的に多くなります。さまざまな業態のクライアントを担当できるためスキルの幅が広がり、監査のほかにアドバイザリー業務も経験できる場合もあります。
結果的にキャリアパスの選択肢も増えるので、できるだけはやく中小監査法人に転職したいと考える会計士もいます。
また、大手監査法人では大企業・上場企業の監査を行うため、スタッフクラスでクライアントの役員と話をする機会はなかなかありません。中小監査法人では若手のうちから役員クラスの人と話ができることも多々あり、コミュニケーションスキルも磨かれます。主査をはやくに経験できるためマネジメントスキルも手にできるでしょう。
前述のとおり中小監査法人では大手監査法人よりも効率的に業務を進められます。そのため大手監査法人と比べると残業が少なく、ワークライフバランスを保ちやすいといえます。
「監査法人=激務」とのイメージをお持ちの方も多いですが、大手と中小では環境がかなり違います。「監査は好きだけどワークライフバランスも大事にしたい」と考える方は中小監査法人への転職も視野に入れるとよいでしょう。
大手監査法人では大手・上場企業の監査を何十人規模の監査チームで担当するため、若手の頃は簡単な科目や単純作業しかやらせてもらえません。裁量権はほぼなく、現場責任者や先輩の指示に従って黙々と作業する日々が続くでしょう。
中小監査法人では比較的小規模なクライアントが多いため、監査チームも少人数で担当します。そのため若手のうちからさまざまな科目や論点を経験でき、裁量権も与えられるため速いスピードで成長できます。
大手監査法人で働くには、新卒のときの就職はそれほど難しくありませんが、転職となると採用ハードルが上がります。大手監査法人は基本的に定期採用をメインに人材を確保するため、中途採用する場合は特筆すべきスキルや経験がある、優秀な経歴があるなど人材に求める要素が多くなるからです。
中小監査法人は中途採用がメインなので大手と比べて門戸が広く、転職のハードルは下がります。また大手以上に人材不足が顕著なので、比較的転職しやすいでしょう。
大手監査法人から中小監査法人へ転職した場合、意外にも年収が上がるケースも少なくありません。ただし以下の点には注意が必要です。
BIG4監査法人の従業員数は3,000人~6,000人と桁外れに多いですが、中小監査法人の中でも数百人規模の従業員を抱える法人があり、準大手監査法人と呼ばれます。
準大手の場合、大手に比べれば監査工程や間接コストが少ないため従業員への還元という点では有利ですが、規模が大きいほど大手監査法人に近くなります。中小監査法人といっても数人規模の小さな法人から数十人、数百人規模まで幅があります。
海外ファームと提携している法人もあれば、していない法人もあり、それによって業務の進め方や年収も変わる可能性があります。気になる法人の規模や特徴はよく確認しておきましょう。
大手監査法人のクライアントにはグローバル企業が多いため、語学力を発揮できる機会があります。海外研修生制度や海外語学留学プログラムなども実施しているので、グローバルに活躍したい方には適した環境です。
中小監査法人でもグローバル企業の監査を担当することがありますが、大手監査法人と比べると少なくなってしまうでしょう。
最先端のデジタル技術を用いた監査や、高度・複雑な手続きを必要とする監査は、やはり大手監査法人がトップです。会社規模や時価総額でトップクラスの企業の監査も、基本的には大手監査法人で行うケースが多いでしょう。
そのため、最新の監査や大手クライアントの監査に携わりたいという方は中小監査法人では物足りない可能性があります。
大手監査法人では社会保険などの法定福利厚生は当然として、企業内保育園やベビーシッター利用料補助など独自の福利厚生を設けている法人もあります。一般に監査法人は福利厚生が整っていないと言われますが、大手監査法人では一般事業会社で働くのと遜色ない制度を利用できる場合も多いでしょう。
この点、中小監査法人は大手監査法人と比べるとどうしても見劣りしてしまいます。ある程度の福利厚生を整備している法人もありますが、本当に最低限のものしか整備されていない法人もあります。
たとえば出張手当がないようなケースでは手取りにも直接関わってくるので、転職の際にはよく確認しておくのがよいでしょう。
大手監査法人には退職金があります。同じ職位に一定年数いると退職金の積み上げがなくなるなど、一般事業会社と比較すると不利な仕組みですが、勤続年数が長ければそれなりの退職金を手にできます。
中小監査法人にも退職金制度はありますが、中にはない法人もあります。退職金がないと生涯年収が変わってきてしまうので、収入面が気になる方は事前に確認しておきましょう。
転職先として中小監査法人が気になる方は、転職エージェントに相談しましょう。
中小監査法人の数は年度によって異なりますが、2019年度は229法人でした。これだけ多くの法人の中から自分に合った法人を選ぶ必要があるので、自分ひとりで選ぶのは難しいといえます。
中には監査体制がずさんで行政処分を受ける中小監査法人もあるので、公認会計士の転職事情に詳しい転職エージェントに相談して適切な法人を選定する必要性が高いです。
※参考:公認会計士・監査審査会|令和元年版モニタリングレポート 主なポイント
公認会計士もほかの職種と同様に、組織風土や職場の雰囲気が合わないなど、いわゆる人間関係で辞めるケースが少なくありません。しかし求人票だけでは判断できない部分ですし、自分で調査するには限界があります。
転職エージェントは独自の情報網を活用し、応募先の組織風土や職場の雰囲気、実際の残業時間など詳しい情報を入手できます。転職エージェントを利用すればこうした詳細情報を提供してくれるので、転職後のミスマッチを回避でき、転職が成功しやすいでしょう。
公認会計士は専門性の高い職種なので、公認会計士の転職に詳しいエージェントの利用がおすすめです。そのなかでもハイスタ会計士は公認会計士・経理・財務の転職に強みを持つ転職エージェントです。
サイト:ハイスタ会計士
企業側と求職者側のどちらも同じアドバイザーが担当する「一気通貫型」を採用しているため、双方の事情をよく把握できてミスマッチのない転職支援を可能としています。専任のアドバイザーがひとりひとりのスキルと経験を活かせる転職をサポートしてくれます。
もともとは弁護士業界に特化したネットワークに強みを持っているため、士業関係者の転職ノウハウや業界ならではの勘所を抑えた提案が可能です。また、大量の求人を送ってくるだけのエージェントとは違い、ひとりひとりに合った、『活躍できる環境』の提供に重きを置いているため、ミスマッチのない転職をすることができます。
監査法人からの転職、事業会社でのCFO候補など、IPO準備中企業やハイクラス求人特化の転職が可能ですので、スキル・強みを活かした転職活動を進めることができます。
公式サイト:https://hi-standard.pro/cpa/
公式サイト:https://hi-standard.pro/cpa/
中小監査法人の平均年収は750万円ほどですが、法人規模やクライアント、会計士の年次などによっても異なります。実際にどのくらいの年収を手にできるのかは、応募先ごとによく確認しておきたいところです。
また転職エージェントを利用すれば応募先との年収交渉も行ってくれるため、年収アップを目指す方は利用を検討してみましょう。
edit_note この記事を書いた人
一般事業会社の経理・財務・CFO候補に加え、監査法人・会計事務所への転職支援サービスも充実。転職成功事例や充実したサポート体制をお約束します。
Related Article関連記事