公認会計士の転職
更新日:2023/11/30
公開日:2022/02/04
公認会計士と税理士はいずれも会計分野の専門家ですが、両者の違いがよく分からない方も多いのではないでしょうか。
会計士から税理士へ転職したい、反対に税理士から会計士へ転職したいと考える方は少なくないため、両者の違いを理解することは大切です。この記事では会計士と税理士の違いを整理してお伝えするとともに、それぞれの職種に転職する方法や、転職によってどのようなキャリアを構築できるのかを解説します。
目次
会計士と税理士は同じような職種だと思われがちですが、それぞれ独立した別の職業です。主な違いを解説します。
会計士の独占業務は監査です。監査とは企業が作成した財務諸表が法律や会計基準と照らして適正かどうかをチェックし、利害関係者に対して正しい財務情報を報告することです。ほかにもM&Aや会計システムの導入に関する助言など、会計・財務の面から幅広い企業支援、コンサルティングをおこないます。
税理士の独占業務は税務です。税務には税務申告の代理や税務書類の作成・提出代行、節税に関するアドバイスなどの相談業務があります。税理士は複雑な税務分野を深く理解・追求しているため、会計士とは違う税務面からのコンサルティングもおこないます。
会計士の主なクライアントは監査を義務づけられた上場企業や大企業です。これに対して 税理士の主なクライアントは中小企業や個人事業主です。大手税理士法人であれば大企業を相手にしますが、大手税理士法人で働く税理士は税理士全体からみればわずかなので、中小企業を相手とする機会が多いと考えてよいでしょう。
会計士の勤務先は監査法人を中心に、コンサルティングファームや事業会社、会計事務所などがあります。監査法人の所在地は大都市圏が多いので、会計士は地方よりも都会で働く機会が多いといえます。
税理士の勤務先には税理士法人や会計事務所・税理士事務所、事業会社などがあります。事業会社の場合は経理部門などで働く人が多くなります。これらは大都市圏だけでなく地方にも分散しているため、税理士は全国どこに行っても働きやすい職種といえるでしょう。
令和元年の賃金構造基本統計調査によれば、会計士と税理士の年収は企業規模10人以上で約683万円、1000人以上で約836万円です。
※きまって支給する現金給与額の12ヶ月分と年間賞与その他特別給与額の合計で算出。
区 分 | 企業規模計(10人以上) | ||||||||
年齢 | 勤続 年数 |
所定内 実労働 時間数 |
超過 実労働 時間数 |
きまって支給す る現金 給与額 |
年間賞与 その他特 別給与額 | 労働者数 | |||
所定内給与額 | |||||||||
歳 | 年 | 時間 | 時間 | 千円 | 千円 | 千円 | 十人 | ||
弁護士 | 40.1 | 5.5 | 160 | 1 | 502.5 | 501.2 | 1255.6 | 264 | |
公認会計士、税理士 | 42.7 | 11.0 | 154 | 16 | 472.0 | 420.2 | 1171.5 | 518 | |
社会保険労務士 | 44.7 | 13.4 | 170 | 11 | 334.9 | 313.5 | 841.4 | 60 | |
男性 | |||||||||
弁護士 | 39.1 | 5.0 | 156 | 0 | 531.6 | 530.6 | 920.5 | 157 | |
公認会計士、税理士 | 41.8 | 10.5 | 156 | 18 | 525.5 | 466.3 | 1362.5 | 351 | |
社会保険労務士 | 43.8 | 12.0 | 174 | 13 | 361.8 | 336.8 | 805.9 | 39 | |
女性 | |||||||||
弁護士 | 41.7 | 6.2 | 165 | 1 | 459.4 | 457.6 | 1752.0 | 106 | |
公認会計士、税理士 | 44.4 | 11.9 | 151 | 12 | 360.1 | 323.8 | 771.5 | 168 | |
社会保険労務士 | 46.3 | 15.9 | 163 | 8 | 286.2 | 271.4 | 905.9 | 21 |
この統計では会計士と税理士は同じ分類となっているため両者の違いは明らかではありませんが、基本的には会計士のほうが多いと考えられます。というのは、会計士の主なクライアントは大手になるため、中小企業をクライアントとする税理士よりも収益が大きいと予想されるからです。
したがって会計士から税理士へ転職を希望する場合は、一時的な年収ダウンを許容しつつ、転職してからパフォーマンスを上げていくという積極性が必要となるでしょう。
会計士のキャリアとして、まずは監査法人へ就職するケースが大半です。その後は監査法人内でキャリアを積み上げていくか、コンサルティング会社や一般事業会社に就職してキャリアを広げていくというかたちです。
独立に関していうと、会計士の独占業務が監査であることから、公認会計士資格だけで独立する選択肢はとりにくい面があります。会計士が独立する場合はいったん税理士法人などへ転職し、税務を身につけたうえで会計士・税理士として独立するケースが一般的です。
税理士のキャリアは最初からいくつもの選択肢があります。税理士事務所や金融機関、事業会社などへ就職し、その後は組織内でキャリアを積む人やほかの組織へ移る人などがいます。税理士は中小企業や個人事業主など幅広いクライアントの税務を担当できるため、はやい段階で独立する人が多いのも特徴です。
税理士になるには税理士試験に合格するのが王道の方法ですが、ほかにも方法があります。そのひとつが公認会計士の資格を有する者が税理士登録するというものです。つまり公認会計士資格があれば税理士試験を受けずとも税理士になれます。
税理士となる資格について
次のいずれか一つに該当する者が、税理士となる資格があります。ただし、(1)又は(2)に該当する者については、租税又は会計に関する事務に従事した期間(いわゆる実務経験)が通算して2年以上あることが必要です。
- 税理士試験に合格した者であること
- 税理士試験を免除された者であること
- 弁護士(弁護士となる資格を有する者を含む。)
- 公認会計士(公認会計士となる資格を有する者を含む。) のいずれかに該当しなければなりません。
公認会計士は、公認会計士法第16条第1項に規定する実務補習団体等が実施する研修のうち、財務省令で定める税法に関する研修を修了した公認会計士となります(平成29年4月1日施行)
引用元:税理士の資格取得 | 日本税理士会連合会
現在、税理士として活躍している方が会計士への転職を目指す場合について解説します。
近年は会計士へのキャリアチェンジを希望する税理士が少なくないといわれています。
税理士の主要業務である税務申告や仕分け入力作業は、ITの進化によって一部が簡略化されつつあります。会計ソフトを用いればクライアント企業が自社でおこないやすい環境が整うため、あえて税理士に依頼する必要性が薄れてきているのです。
またクライアントである中小企業が経営者の高齢化や海外移転などによって少なくなってきている現状もあります。
公認会計士試験は受験資格に年齢などの制限がないため、経験を積んだ税理士が挑戦できます。また税理士資格を有する者は一定の基準を満たすと短答式試験の一部科目免除を受けられるため、一般の受験者より有利になる場合があります。
税理士が会計士へ転職すると、会計と税務の両方の経験があるという強みを構築できます。基本的に企業が会計の専門家へ依頼する際には、会計分野は会計士に、税務分野は税理士へと別々へ依頼しなくてはなりません。
しかし、会計と税務の両方の経験がある会計士であれば一括して依頼が可能なので企業にメリットがあります。そのため税理士から転職した会計士はニーズが高く、キャリアの幅も広げやすいといえるでしょう。
会計士から税理士へ転職する場合と異なり、税理士から会計士へ転職するには公認会計士試験に合格する必要があります。一部科目免除を受けられたとしても相当の時間をかけて試験勉強をしなくてはなりません。
加えて会計士には2年以上の実務経験と修了考査の合格が必要です。修了考査は原則3年の実務補習を受けたうえで受験資格が得られるため、受験勉強の期間も入れた場合、キャリアチェンジの実現にははやくても5年ほどかかる計算です。
とはいえ現在の年齢によっては今後の職業人生は30年、40年とあります。会計士として長いキャリアを積みたいと考えるのであれば5年をかけてでも会計士に転職する価値はあるのではないでしょうか。
税理士が公認会計士資格を得た後の転職先は監査法人や事業会社などがあります。転職先を選ぶポイントとしては、ご自身がなぜ時間と費用をかけてまで公認会計士試験に挑んだのかという点に集約されます。
たとえば、税理士資格だけではできない業務に就きたいなど、業務の幅を広げる目的があった方が多いのではないでしょうか。この場合、会計士にしかできない業務が監査である点を考えると、転職先は監査法人が中心になるでしょう。あるいは監査部がある上場企業という道もあります。
一方で、会計・税務の知見を活かして企業へのコンサルティングをおこないたいと考えて会計士になった場合は、財務・会計系のコンサルティングファームや事業会社、会計事務所への転職といった方法も考えられます。ベンチャー企業等でIPOに携わりたいと考えて公認会計士資格を取得したのであればベンチャー企業も選択肢です。
いずれにしても、あえて取得した公認会計士資格や勉強内容を活かせる転職先を選ぶことが大切です。
【関連記事】公認会計士におすすめの転職先6種と業界別の求人動向・転職メリットを解説
ここからは、会計士が税理士への転職を目指す場合について解説します。
会計士が税理士への転職を考える背景には、まずは税理士資格の自動付与制度があります。公認会計士試験を突破すると税理士試験を受けることなく税理士としての登録が可能なので、税理士から会計士への転職と比べればハードルが下がります。
また監査法人での勤務経験のみでは独立開業のハードルが高いため、いったん税理士の経験を積んでから独立をしようと考える人もいます。
税務業務への将来性に期待して転職を目指すケースもあります。たとえば高齢化が進む日本では今後、相続の分野で需要が急増し、相続に強い税理士のニーズが高まると予想されています。ほかには中堅の税理士法人などでIPO支援やM&Aなどのコンサルティングに力を入れているため、会計士のスキル・知識を活かしやすいという点も理由として考えられるでしょう。
公認会計士資格があれば無条件で税理士登録ができることから、会計士から税理士への転職は容易だと考える方がいます。しかし、会計士と税理士の違いは業務内容やクライアントなどさまざまな点にあり、会計士のほうが上ということではありません。
それぞれの分野で求められる高度な専門性は実務経験から得られるものなので、税理士の転職市場で会計士だからといって手放しで評価されることはないと理解しておきましょう。
転職活動の中では、なぜ税理士業界へ転職したいのか、どのような経験が活かせるのかといった点をしっかり示す必要があります。
会計士から税理士へ転職した場合の勤務先は、税理士法人や会計事務所、事業会社などがあります。クライアント志向が強い方から人気なのは税理士法人です。税理士法人では管理会計やM&A、事業再生等に関する相談を受けるケースが多く、会計士のニーズが高いからです。
将来的に独立を考える会計士であれば会計事務所へ転職し、税務の経験を積む方法もあります。会計士が所属する監査法人は激務であることから、ワークライフバランスを保ちやすい事業会社に転職し、会計・税務の担当者としての道を選ぶ方もいます。
【求人を探す▶︎】公認会計士に特化した厳選求人をご紹介
会計士・税理士が転職するには、先方の繁忙期や求人の状況を考慮して計画的に活動を進めるとよいでしょう。
監査法人の繁忙期は、企業の監査が集中する3月~5月頃です。そのためこの時期が終わった頃の閑散期を狙って活動するのがスムーズです。そのほうが先方からじっくりと話を聞きやすく、失敗のリスクを抑えることができます。
税理士が公認会計士試験に合格したタイミングで監査法人へ転職する場合には、試験のスケジュールを考慮する必要があります。合格者の採用活動は、論文式試験が終わった8月下旬から11月の合格発表までの間に集中的に実施されるため短期決戦となります。
あまり時間的な余裕がないため、はやめはやめの準備を心がけましょう。
税理士法人、会計事務所・税理士事務所の繁忙期は一般に12月~3月です。この時期に入ってから積極的に募集をかける法人・事務所は多くないでしょう。他方で、繁忙期を迎える前の9月~11月頃は採用が活発化しやすい傾向にあります。
できるだけ多くの求人の中から選びたいという場合は、求人の状況を注視して活動しましょう。
一般事業会社の繁忙期は決算時期や部署によっても異なりますが、たとえば3月決算の会社で経理部なら3月~4月頃が忙しさのピークを迎えるでしょう。財務部は4月~6月頃が繁忙期になると考えられます。
決算期は3月が多いですが会社によって異なりますので、あらかじめ確認しておくのがよいでしょう。
コンサルティングファームの繁忙期はどの企業を担当しているのか、担当企業でどんなプロジェクトが進行しているのかなどによって変わるため、繁忙期の把握は難しい面があります。
ただ決算期の数ヶ月から半年前くらいに中長期の戦略を立てるケースが多いため、担当企業の種類や決算時期などからある程度予測することはできます。
転職活動をする際に転職エージェントを使うべきか、それとも自力で活動したほうがよいのか迷っている方に向けて、それぞれの方法のメリット・デメリットをお伝えします。
自分のペースで転職活動ができ、これぞという求人を自ら選んで応募できるのがメリットです。業界のツテがあれば短期間で決着する可能性もあります。自己分析がしっかりできていて、自身をアピールするのも上手な方は、自力で活動しても転職が成功するでしょう。
一方で、情報収集能力に限界があるというデメリットがあります。応募先の内情を把握できないまま転職してしまい失敗するリスクや、自分の視野だけで応募先を選定するため選択肢が狭まる可能性が考えられます。
また現在、会計士や税理士として働いている場合は仕事と転職活動を両立する必要があり、時間的な余裕がありません。計画的に活動しないと心身ともにハードになるでしょう。
転職支援のプロからサポートを受けられるのがメリットです。キャリアコンサルタントが転職の方向性についてアドバイスし、応募書類や面接対策を実施するなど、内定の獲得確率を上げるための支援をします。転職エージェントには独自の情報網があるため、業界や企業の内情に詳しく、転職に際して有益な情報を提供してもらえる点もメリットです。
面接の日程調整や給与交渉なども代理してくれるため、今の仕事が忙しい方でも効率よく転職活動ができます。
デメリットとしては、キャリアコンサルタントとの面談や連絡の際のやり取りなどが発生するため、自分のペースで活動を進めたい方にとっては煩わしさを感じる場合があります。
会計士・税理士が転職エージェントを活用する場合は、業界や職種に詳しいエージェントを選ぶことが大切です。以下におすすめのエージェントを挙げますので参考にしてみてください。
手前味噌ではありますが、ハイスタは公認会計士・税理士の転職に特化した専門エージェントです。
もともとは弁護士業界に特化したネットワークに強みを持っているため、士業関係者の転職ノウハウや業界ならではの勘所を抑えた提案が可能です。また、大量の求人を送ってくるだけのエージェントとは違い、ひとりひとりに合った、『活躍できる環境』の提供に重きを置いているため、ミスマッチのない転職をすることができます。
公式サイト(会計士向け):https://hi-standard.pro/cpa/
公式サイト(税理士向け):http://hi-standard.pro/tax/
大手リクルートグループのコネクションと知名度を活かし、圧倒的な求人件数を保有するのが特徴です。会計士や税理士に特化したエージェントではありませんが、会計士・税理士の求人も多数扱っています。求人の選択肢を広げるのに有効なので、迷ったら登録しておくとよいでしょう。
公式サイト:https://www.r-agent.com/
経理会計に特化したエージェントです。公認会計士がはじめたエージェントとあって業界・職種に精通しており、応募先の詳細の情報や有益なアドバイスを受けられるのが特徴です。公認会計士や税理士求人が豊富で、とくに会計士の転職支援に定評があります。
公式サイト:https://career.jusnet.co.jp/
管理部門・士業特化型のエージェントです。管理部門に強いため上場企業や大手企業などの紹介を受けることができ、業種はメーカーやコンサル会社などが豊富です。とくに事業会社への転職を考えている会計士・税理士にフィットする求人を見つけやすいでしょう。
公式サイト:https://www.jmsc.co.jp/
マイナビ会計士は会計士・試験合格者・USCPAを専門に、マイナビ税理士は税理士・科目合格者を専門にしています。運営元のマイナビは業界トップクラスの実績をもち、転職のノウハウが豊富なので、サポートの手厚さに評価があります。丁寧なサポートを受けたい、じっくり相談したいといった方に向いています。休日相談も実施しているので平日は忙しくて時間がない方にもおすすめです。
会計士と税理士は業務内容やクライアント、働く場所などいくつもの違いがあります。どちらも高い専門性が求められる職種であり、繁忙期なども異なります。それぞれの職種へ転職したい場合は戦略的に転職活動を進める必要がありますので、転職エージェントを活用するなどして工夫してみてください。
edit_note この記事を書いた人
一般事業会社の経理・財務・CFO候補に加え、監査法人・会計事務所への転職支援サービスも充実。転職成功事例や充実したサポート体制をお約束します。
Related Article関連記事