公認会計士の転職
更新日:2023/04/12
公開日:2022/05/23
公認会計士としてのキャリアを充実させるには、独占業務である監査業務を担当できる監査法人への経験が不可欠です。さまざまな企業の会計実務に関わり、多様なビジネスモデルに触れながら、公認会計士として多くの経験を積むことができるでしょう。
公認会計士は監査法人が最初のキャリアとなるケースが多数ですが、「就職氷河期に監査法人に就職できなかったので再挑戦したい」「別業界で働きながら公認会計士資格を取得した」などの理由で未経験から監査法人への転職を目指す場合があります。
この場合、多くの方にとって気になるのは、
といった点ではないでしょうか。本記事では未経験での監査法人への転職をテーマに、上記の疑問について解説します。
目次
監査法人への転職は長年にわたり実務経験が重視されてきましたが、近年は未経験者も積極的に採用する傾向が見られます。未経験者の教育に取り組む監査法人が増えているので、未経験から監査法人へ転職するチャンスはあるといえます。その理由を解説しましょう。
監査法人は大学在学中に公認会計士試験を突破し、新卒で入所した人だけが集まる場所とイメージされる場合がありますが、そのようなことはありません。公認会計士試験の受験には年齢制限がないため、全く別の業界で社会人経験を積みながら試験に合格し、そこから監査法人でのキャリアをスタートさせる人も大勢います。
監査法人で働く人の前職はさまざまです。たとえば一般事業会社の経理や財務などの会計領域で働いていた方や、コールセンターや長距離トラックの運転手など全く異なる領域で働いていた方などがいます。
近年はIT会計の発展にともない、システムエンジニアから公認会計士へキャリアチェンジを果たすケースも出てきています。
公認会計士には独占業務である監査業務があります。公認会計士による監査は会社法、金融商品取引法などさまざまな法令によって企業・団体に義務づけられているため、景気の変動に左右されずに安定して仕事が得られます。
特に近年は監査業務の厳格化によって作業工数が増えたために監査報酬の値上げや求人増につながっています。
また非監査業務であるコンサルティングの需要も高まっており、受注数が増えて幅広い人材を求めるようになったため、未経験者にもチャンスが広がっています。
公認会計士試験の受験者が減少したため、公認会計士の獲得が難しくなったことも未経験者採用が広がったひとつの要因です。
公認会計士試験は新試験制度の導入(平成18年度から)で従来の試験制度よりも受けやすくなったことにより、受験者数は平成17年の15,322人から平成18年の20,796人と大幅に増加しました。
しかし平成22年に25,648人とピークを迎えた後は減少に転じ、平成27年には10,180人とピーク時の半数以下にまでなっています。直近では令和元年が12,532人、令和2年が13,231人とわずかながら回復傾向が見られてきていますが、それでもピーク時よりは少なくなっています。
平成25年に金融庁がIFRS(国際財務報告基準)の適用条件を緩和したのにともない、IFRSの導入を検討する企業が増加しました。
引用元:金融庁|IFRSレポート
またディスクロージャー制度(企業内容等開示)によって財務内容等を正確・公正に開示する必要性が強まったことから、インハウス(企業内会計士)の需要が増加しています。
インハウスは監査法人と比べてワークライフバランスがとりやすいことなどから人気が高いため、企業へと流れる公認会計士が増え、監査法人は人材確保が難しくなっている状況です。
上記のような理由から、近年の公認会計士市場は超売り手市場が続いていたため、未経験から監査法人への転職にも大きなチャンスがありました。しかし新型コロナウイルス感染拡大という予期せぬ事態が発生したことで、売り手市場が緩和されつつある点には注意が必要です。
景気変動の影響を受けにくい監査法人では、コロナ禍においても売り手市場はおおむね継続しています。ただしクライアント企業がコロナの影響を避けられない状況では監査報酬の引き上げが難しくなります。そうなれば監査法人も新たな採用を控えるか、採用するにしても厳選採用の傾向が強くなるでしょう。
つまり未経験者への門戸が狭まり、従来の経験者採用傾向に戻るということです。公認会計士市場全体では売り手傾向にあったとしても、未経験から監査法人への転職は厳しくなってくる可能性があります。
もっとも、別の視点からいえば、未経験から監査法人に転職するにはチャンスがある今のうちに動き出したほうがよいと考えることもできます。
ここからは監査法人の規模ごとに未経験から転職できる可能性を探ってみましょう。
公認会計士・監査審査会では「上場会社をおおむね100 社以上監査し、かつ常勤の監査実施者が 1,000 名以上の監査法人」を大手監査法人と定義づけています。これに該当するのは「新日本有限責任監査法人」「有限責任監査法人トーマツ」「有限責任あずさ監査法人」「PwC あらた監査法人」の4法人です。Big4監査法人と呼ばれています。
Big4監査法人は、取引先企業の規模が大きく日本を代表する企業の監査に若いうちから携われること、年収や教育などを含めて恵まれた環境にあることなどから求職者の人気が集中します。離職率も低いため人材確保に難航しているわけではありません。
したがって採用ハードルは高く、未経験者にとっては厳しい状況です。
しかし優秀な人材には常に門戸を開いているため、監査未経験でも経歴によっては転職も可能です。クライアントが大手企業になるため、大手企業での職歴があれば評価される可能性があります。大手企業の業務の流れや意思決定のプロセスへの理解などをアピールしましょう。
準大手監査法人とは、大手監査法人以外で、比較的多数の上場会社を被監査会社としている監査法人をいいます。「太陽有限責任監査法人」「東陽監査法人」「京都監査法人」「三優監査法人」「仰星監査法人」「優成監査法」の6法人が該当します。
準大手監査法人でも大手監査法人に近い経験を積めますし、待遇面も大手に遜色ない法人もあります。それでも大手と比べれば取引先企業の規模や件数は下がるため人気はやや劣ります。
法人の採用に対する考え方も多様化しているため、大手よりは転職できる可能性が高いといえます。
中堅監査法人とはBig4監査法人と準大手監査法人を除いた監査法人をいいます。中堅といっても数百人規模の法人もあり、取引先企業の業種もさまざまです。
公認会計士の転職市場は大手や準大手に人気が集中するため、人材確保に難航しやすいのは中堅監査法人です。また大手・準大手が採用時から完成された人材を求める傾向にあるのに対し、中堅は育てることを前提にポテンシャルで採用するケースがあります。
したがって、未経験でもチャンスがもっとも大きいのが中堅監査法人です。分業制を基本とする大手・準大手と比べて任される業務内容の範囲が広いので、将来的な独立も見据えた転職が可能です。
もっとも、即戦力を求める中堅監査法人もあるので、応募先で求められる経験・スキルを見極めたうえで転職活動を進める必要があります。
未経験で監査法人に転職を考える場合、年齢も気になる部分でしょう。一般に未経験分野への転職は20代が限界などと言われますが、公認会計士の場合はどうなのでしょうか?
監査法人が未経験者を採用する場合、想定しているのは主に20代~30代の方です。監査法人ではさまざまな業種の取引先があるため、それに対応するために前職を活かした転職も可能という意味で、ほかの職種と比べれば未経験で転職しやすい年齢は幅が広いといえます。
特に20代であれば、職歴がほとんどなくても監査法人に転職できる可能性はそれなりに高いと考えられます。難関試験を突破したポテンシャルがある人材としての成長に期待されるからです。
30代でも転職できる可能性は十分にありますが、職歴がない場合の転職は難しくなります。前職を活かした転職になると思っておきましょう。
40代以降で公認会計士試験に合格する人もいるので、未経験での転職可能性はゼロではありません。しかし年齢的には厳しくなるのも事実です。職歴があるのは当然として、少なくとも会計領域での業務経験が必要となります。
40代以降の方がこれまでのキャリアを活かしやすいケースとしては、次のような経験が挙げられます。
ほかにはコンサルティングファームでの勤務経験があれば、監査法人のアドバイザリー部門への採用も視野に入るでしょう。アドバイザリー部門ではプロジェクトによって多様な経験を活かせるので、他業界での経験や知見はおおいに期待されるところです。
ここで、未経験から監査法人に転職するために大前提として必要な要素を整理します。未経験での転職が可能といっても誰でも可能なわけではないので、そもそも採用の土俵に上がれるのかを確認する必要があるからです。
まずは公認会計士試験に合格していることです。監査法人では全科目合格を応募条件に掲げているケースが多いので、これを満たさなければ応募することができません。
ただしアドバイザリー部門に限っては資格以上に実務経験を重視する傾向が見られるため、科目合格+前職の経験で転職できる可能性があります。
USCPA(米国公認会計士)のみに合格している場合でも、監査法人への転職は可能です。
多くの日本企業が海外企業とパートナーシップを組む中で、IFRS(国際財務報告基準)への深い理解が求められているため、USCPA合格者は高い需要があります。外資系のクライアントや現地法人への対応にあたるポジションを募集している法人でもチャンスがあるでしょう。
ただしUSCPAさえあれば転職できるというものではなく、会計やコンサル業務の経験は必要です。
30代以降のミドル層であれば資格があることを前提として、どのような職務経験があるのかによって転職の可能性は変わってきます。未就業で監査法人に入所するのは厳しいと考えておくべきでしょう。30代で職歴が少ない場合は、ある程度の経験を積んで市場価値が高まってから転職するのもひとつの方法です。
未経験から監査法人へ転職したいと考える方の場合、ストレートで監査法人に就職した人と比べると公認会計士としての経験値では遅れをとっているので、将来のキャリアを考えておく必要性はより高くなります。
たとえば監査業務を一度は経験してみたいという理由で転職しても、将来的には事業会社の経理をしたい場合には遠回りになってしまいます。この場合はあえて監査法人に転職するのではなく経理としての専門性を高めることに注力したほうがよい可能性があります。
監査法人へ転職して何をしたいのか、そこでの経験は将来のキャリア形成に必要なのかはよく考えておきましょう。
一般的な会社では入社年次に関係なく、年齢による上下関係が存在します。たとえば中途で入社したばかりの30代の社員が、新卒で5年の経験を積んだ20代の社員に対して上からの目線で接するケースなどは少なくありません。
しかし監査法人はスタッフ→シニアスタッフ→マネージャー→パートナーといった職階が設けられているため、年齢ではなく経験年数が重視されます。未経験で監査法人へ転職する場合は、ある程度の年齢であるケースも多いですが、基本的にスタッフからのスタートになります。
自分よりも年下の公認会計士から指導を受けることも多々あるので、年齢による上下関係を気にする方にとってはストレスになるでしょう。自分は新人であるとの覚悟を持てるかどうかを、転職前に自問自答しておくことをおすすめします。
未経験でも監査法人への転職を成功させるためには、どのような点が評価されやすいのかを知っておくことが大切です。以下で評価対象となる項目を見てみましょう。
監査は未経験でも類似業務の経験があれば、監査業務に関する知識を吸収しやすく、順調に成長していく期待が持てます。具体的には会計事務所での勤務経験や財務諸表に関する業務、金融機関での営業経験などが挙げられます。アドバイザリー部門に応募する場合は内部監査・内部統制、M&Aアドバイザリーの経験などがあれば評価の対象となります。
英語力があれば積極的にアピールすべきです。レベルとしては英語でのミーティングが難なくできる程度が想定されます。TOEICは800点以上、できれば900点以上あると評価されるでしょう。
監査業務はクライアント企業から資料の提出や質問の回答を引き出す必要があり、監査チームとの連携も要求されます。そのためコミュニケーション能力や協調性が不可欠です。
どんなに優秀でも、コミュニケーション能力がない人や周囲との連携を取れない可能性がある人に対して採用担当者は消極的な姿勢を見せます。
コミュニケーション能力や協調性は面接でチェックされるポイントですが、面接の場で流暢に話ができることが重要なのではありません。これまでにチームを牽引した経験がある、周囲と協力して達成した業務があるなどの実績を伝えることが大切です。
大手監査法人を中心に業務のデジタル化が進められています。
また企業の情報処理システムを対象としたシステム監査に対応できる人材や、ITコンサルの採用に力を入れている監査法人が増えており、ITリテラシーの高さが評価の対象となります。ITになじみの深い若年層はともかくとして、公認会計士全体で見ればITが苦手という人も多いのでアピールポイントになるでしょう。
監査法人では常に向上心を持って業務に取り組む方や努力家が多く働いています。
採用担当としても、公認会計士の仕事に強いやりがいを感じている方や志の高い方、学習意欲が高い方に入所してほしいと考えている場合が多くあります。チームのメンバーと仕事をするため、人柄がよい方や気遣いができる方も好まれる傾向にあります。
監査法人が未経験の場合は経験者と比べてどうしても即戦力性は劣るので、志や意欲の高さ、人柄等を見て判断することも少なくありません。
公認会計士試験を突破したことは、それ自体が素晴らしいポテンシャルの証であるため、未経験で監査法人へ転職することは十分可能です。
ただし現在の年齢や職歴、応募する法人の規模などによって転職できる可能性は変わってきます。まずはご自身の状況を整理し、会計領域に特化した転職エージェントにアドバイスを仰ぐなどして転職の可能性を探ってみましょう。
参考補足:(本文中データ紹介について)公認会計士試験の受験者推移
令和2年:13231人
令和元年(平成31年):12532人
平成30年:11742人
平成29年:11032人
平成28年:10256人
平成27年:10180人
平成26年:10870人
平成25年:13224人
平成24年:17894人
平成23年:23151人
平成22年:25648人
平成21年:21255人
平成20年:21168人
平成19年:20926人
平成18年:20796人
平成17年:15322人
edit_note この記事を書いた人
一般事業会社の経理・財務・CFO候補に加え、監査法人・会計事務所への転職支援サービスも充実。転職成功事例や充実したサポート体制をお約束します。
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