公認会計士の転職
更新日:2022/10/07
公開日:2022/07/26
グローバル化や情報化など企業を取り巻く環境がめまぐるしく変化している中、M&Aは国内外で活発に行われています。
以前は大企業同士のM&Aが主流でしたが、近年は中小企業も含めてM&Aが盛んです。M&Aによって、買い手企業は売上規模の拡大や新規事業の参入、人材の獲得などさまざまなメリットを享受できます。
売り手企業にとっても、経営者の高齢化による事業継承問題の解決や従業員の雇用維持、経営基盤の強化など多くのメリットがあります。
これらのメリットを最大限に享受するために欠かせないのが「PMI」です。M&Aの中でとりわけ重要なプロセスなので、PMIに関わってみたいと感じる公認会計士も多いのではないでしょうか。
この記事ではPMIの流れや仕事内容を説明したうえで、公認会計士がPMIに関与するメリットや転職先の候補、転職難易度などについて解説します。
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目次
M&A成立後の事業統合プロセスのことです。M&Aでは異なる組織をひとつにします。当然、もともとは別個に存在していたものをあらゆる部分で統合しなければなりません。
それは経営理念や経営戦略といった理念から、業務プロセスや組織構成、企業文化といったものにまでおよびます。
こうした要素をひとつひとつ検討し、統合する作業がPMIです。
PMIはM&Aそのものではなく、M&Aにより目指す未来に着目している点が特徴です。PMIによる効果は実施してすぐに創出されるわけではないため、半年や1年単位での中・長期的な取り組みを行う必要があります。
M&Aは売上拡大や市場シェアの獲得、業務効率化や従業員満足度の向上などさまざまな目的をもって行われます。PMIはこのような効果のシナジー(相乗効果)を最大化して事業価値を高めるために行われるプロセスです。
またキーパーソンの退職や顧客離れなど買収後に想定される問題やトラブルに適切に対応し、M&Aによるリスクを最小化する意味もあります。M&Aが目的になると成約しただけで満足しがちですが、PMIを実施しなかったことで企業価値の低下や社内の混乱を招くケースがあります。
結果的にM&Aの目的を果たせず効果も得られないという事態になるため、PMIはM&Aを本当の意味で成功に導くための非常に重要なプロセスなのです。
M&Aは以下の流れで実行します。PMIが行われるタイミングはM&Aが成立した後です。
まずはM&Aを実行する相手企業の選定を行います。企業はM&Aの目的を明確化したうえで、その目的を達成できる相手企業を選定します。自社の強み・弱み、課題を整理し、最適な交渉先を見つける必要があります。
M&Aでは専門知識を必要とするプロセスが多く自社での完結は難しいため、基本的にはこの段階からコンサルティング会社など外部の専門家に調査を依頼するケースが多いでしょう。
デューデリジェンスとは対象企業や事業の実態を把握し、潜在的なリスクを洗い出す作業のことです。M&Aでは税務や法務、労務やITなどさまざまな分野のデューデリジェンスを実施します。
税務デューデリジェンスは税理士、法務デューデリジェンスは弁護士というように、それぞれ各分野の専門家が行います。
公認会計士が関与するのは基本的に財務デューデリジェンスです。対象企業の財務面について財務諸表の調査・分析を行いつつ、簿外債務や偶発債務なども含め、対象企業から提出された資料と実態の差異がないかをチェックします。
財務デューデリジェンスの結果は買収価格に反映されるため非常に重要な業務です。財務デューデリジェンスの実施はM&Aにおける公認会計士の主な役割のひとつといっても過言ではありません。
【関連記事】財務DDの仕事内容とは|実施の流れ、公認会計士が経験するメリットも解説
デューデリジェンスによって財務状況や経営環境、潜在リスクを把握したら、売り手企業の価値を算定します。評価手法にはコストアプローチ・マーケットアプローチ・インカムアプローチの3つがあり、どの手法を採用するのかによって企業価値も変わります。
算定された企業価値はM&Aにおける買収価格を交渉する際の土台となります。バリュエーションは、買い手企業にとってはリスクを網羅的に認識してできるだけ安く買うこと、売り手企業にとっては適正価格での売却を実現するという目的があります。
企業価値の算定には高度な会計知識が必要となり、公認会計士による信頼性の高い数値が不可欠です。バリュエーションは財務デューデリジェンスと同様に、公認会計士としての経験・知識を大いに発揮できる業務です。
デューデリジェンスとバリュエーションを行い、M&Aをしても問題がないと判断したらM&Aを実行します。
最終契約書へ調印し、成約となります。M&Aの成約ばかりが着目されがちですが、重要なのはここからです。PMIによってM&Aリスクの最小化とシナジー効果の最大化を図る必要があります。
PMIはM&A後の統合作業なので、実施するタイミングはM&Aが成立した後です。しかし、このタイミングで準備を始めたのではシナジーを最大限に高めることはできず、むしろ混乱やトラブルを招く原因となります。
そのためPMIの準備は成約する前から行うことが大切です。デューデリジェンスの前から統合後のあるべき姿を意識し、統合後に問題になりそうな事象も整理しておくことで、成約直後からPMIをスムーズに進めることができます。
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PMIは統合方針の制定→100日プランの策定→施策の実行という流れで行います。PMIの仕事内容について解説します。
具体的な統合作業に入る前に統合方針を制定します。統合の手順や枠組み、統合にかける期間などについて、デューデリジェンスで明らかになったリスクや会社の状況なども踏まえて検討します。
買い手・売り手企業のどちらの戦略を採用するのか、あるいは売り手企業の独立性を保ちながら買い手企業の関与を最小限にとどめるのかなど、シナジーを最大限に発揮するための統合方針を制定する必要があります。
M&Aの成約後、100日間にわたって遂行される事業計画を100日プランといいます。
PMIは重要な作業ですが、実効性とスピード感をもって進める必要があるため、100日間という期間を区切って実行するのが一般的です。
実際にシナジー効果が発揮されるまでには年単位でかかる場合もあるため、100日プランでは特に優先順位の高いテーマを中心に取り組み、その後の長期的な取り組みを支える仕組みづくりを行います。
100日プランの中に、統合方針で定めた要点やPMIにおける課題、課題解決のための取り組みなどを詳細に落とし込みます。100日プランはM&Aが成立した直後から進めるため、デューデリジェンスの開始時期からM&Aまでの間にプランを作成します。
また100日プランの進捗状況を定期的にモニタリングし、必要に応じて軌道修正を図ります。
統合の対象は「経営」「業務」「意識」の3つです。まずは3つの領域ごとに現状分析と課題の整理を行います。
経営統合は3つの対象の中でもっとも上位に位置する統合です。統合後の企業の方向性を決める重要な作業であり、2つの組織の経営理念や経営戦略、人事評価制度や会計制度といった要素を統合します。
経営統合には、メイン企業の経営理念等に統合する手法と、新たな経営理念等を策定する手法があります。
当事者のトップ同士だけで経営ビジョン等を共有していても、現場にいる従業員たちに伝わらなければ不安を解消できず、全社が一丸となって施策に取り組むことはできません。
そのため経営理念等は従業員たちにも共有し、目指す方向性に共感してもらえるよう説明する必要があります。
経営統合の下層に位置するのが業務統合です。業務プロセスや役割分担、情報システムや人事・組織の構成など業務・制度に関する要素を統合します。
たとえば、どちらの制度を残すのか、どんなシステムを導入するのかといった具体的な検討を行います。
業務統合により重複する業務が減ればコスト削減や生産性の向上などにつながります。一方で、業務統合は従業員の日常業務に直接影響を与える取り組みなので現場責任者の声も踏まえて慎重に行う必要があります。
とくに人的統合ついては従業員の配置転換や増員、人員削減など大きな変化がともなうため、従業員の意見も尊重しながら細やかな配慮を忘れずに実行することが大切です。
業務統合の下層に位置するのが意識統合です。M&Aは2つの組織を一緒にする行為であり、それぞれの組織には従業員がいます。
当然、異なる組織であれば企業文化や考え方・価値観も違いますし、M&Aに否定的な考えをもつ従業員がいても不思議ではありません。
特に売り手企業の従業員は不安やストレスを抱えているケースが多くあり、組織内での衝突や従業員の離職を生み出す原因となり得ます。そのため意識統合の中では従業員の精神的なケアも必要です。
PMIは弁護士や税理士などさまざまな専門家が関わります。各専門家は自身の専門分野で関わっていくのが基本です。たとえばM&Aに関する契約書作成支援や法律については法律の専門家である弁護士が関与します。
公認会計士がPMIに関与する場合は会計制度や会計システムの統合、予算管理、業務プロセスなどの領域で関わるケースが多いでしょう。具体的には決算早期化や業務フローの見直し、内部統制などの業務があります。
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公認会計士が転職してPMIを経験した場合、どんなメリットを享受できるのでしょうか。
公認会計士がM&Aに関与する場合、会計や監査業務で培った専門性を活かし、基本的にデューデリジェンスやバリュエーションをメインに行います。
しかしPMIにまで関与する場合は専門外の分野に触れる場面が多くあり、ゼネラリストとしての能力を磨くことができます。
PMIの中でも公認会計士に適性がある業務は存在しますが、PMIにおける統合は各層や要素が密接に結びついています。したがって公認会計士の知識を活かせる業務で関与しても全体像を見渡して統合作業をする必要があり、幅広い知識が身につきます。
公認会計士がPMIを経験すればゼネラリストとしての市場価値を高められ、転職や起業などその後のキャリアを展開しやすくなるでしょう。
デューデリジェンスやバリュエーションのみならずPMIまで一貫した経験を得た後は、キャリアパスが豊富にあります。PMIの経験を通じて多様なキャリアを展開できるのは大きなメリットです。
まず、PMIを通じてコンサルタントとしての基礎的なスキルが身につくため、公認会計士の一般的な転職先であるFASコンサルや別の領域のコンサルティングファームへ転職が可能です。
上場企業のM&A部門や経営企画室、ベンチャー企業のCFOポジションなどへのキャリアも展開できるでしょう。FAS系コンサルなどでM&Aアドバイザリーを経験した場合はPEファンドまたはPEファンドの投資先で採用される場合もあります。
公認会計士がPMIに関与できるのは、主に以下の転職先です。
FAS系コンサルティングファームはM&Aアドバイザリーを提供する会社です。
BIG4系FASと独立系ブティック型のFASがあり、クライアント規模や案件の性質などが異なります。近年、M&Aが活発化していることからFAS系コンサルへの依頼が多く、それにともなって採用も積極的に行われています。
FAS系コンサルでは買い手企業・売り手企業のどちらかからの依頼を受けて戦略立案や財務デューデリジェンス、バリュエーション、PMIなどのサービスを提供します。
PMIコンサルタントなどの職種や、コンサルティングファームのM&Aチームなどで募集が出ている場合があります。
PMIに関与するためにFAS系コンサルへ転職する場合は、M&A戦略からPMIまで一気通貫で取り組んでいるファームなのかの確認が必要です。
そうでないとバリュエーションやデューデリジェンスはやるけどPMIはできなかったなど転職後のギャップにつながってしまいます。
PEファンドではバリューアップチームを設けて投資先企業の価値向上をサポートする場合があり、そのようなチームでPMIに関与できる可能性があります。
M&Aの実務経験が重視されるなど応募条件が厳しく転職難易度は高めですが、公認会計士の場合はデューデリジェンスやバリュエーションで即戦力になれるため、転職の可能性が十分にあるでしょう。
中小規模のM&Aでは、クライアントが顧問先である会計事務所や税理士法人に相談するケースが多くあります。
コンサルティングファームなどに依頼するM&Aと比べて成約案件金額は大きくありませんが、M&A後のクライアントに対する付加価値の提供としてPMIに関与できる可能性があります。
ただし、会計事務所や税理士法人では決算業務や記帳代行などの一般的な会計・税務業務をメインにする場合が多数です。
最近では経営コンサルに注力する会計事務所や税理士法人も増えてきましたが、代表の考え方や経営方針などをよく確認のうえ、コンサルを重視する事務所・法人を選ぶことが大切です。
ここまで見たほかの転職先は外部専門家としてPMIに関わります。
しかし企業内会計士として、事業会社の内部からPMIに関わる場合もあります。積極的にM&Aを行う大手企業などではM&A部門やM&A推進室が置かれているケースが多く、専門部署はなくてもM&A担当を募集する企業もあります。
公認会計士が事業会社へ転職する場合、一般に年収は下がるケースが多いですが、M&A部門は1,000万円超など高年収での募集も比較的多く見られます。
公認会計士は専門性が高い職種であり、市場のニーズも高いため、転職難易度は低めです。基本的に転職先に困るケースは少ないですが、PMIを経験できる転職先に限定すると話が変わってきます。
PMIの案件自体が少ないので、それを扱う人材の求人も少ないというのが現状です。求人の全体数が少ないため選択肢の幅が狭く、希望に合った求人がなかなか見つからない場合があります。
その意味で転職難易度は高めだといえます。
そもそもPMIは自社で行うケースが多く、外部の専門家に依頼する企業はそれほど多くありません。当事者である企業がPMIの重要性を今ひとつ理解しきれておらず、自社で何とか完結できると思い込んでいるケースは多々あります。
M&Aに関するコストをできるだけかけたくないとの思いもあるでしょう。そのためM&A関連で公認会計士に依頼するのは基本的にデューデリジェンスやバリュエーションであって、PMIは付随的な契約にとどまるケースが多いです。
もっとも、デューデリジェンスやバリュエーションがメイン業務になると承知しており、PMIも経験できればよいといった程度の希望であれば求人を探すのは難しくありません。
特に監査業務のみをやってきた公認会計士に多いケースとして、コンサル思考への変換が難しい場合があります。監査は答えや基準がすでに決まっているケースが多く、その中での最善策を導き出すという作業です。
一方、M&Aコンサルは、答えがない中でゼロベースでの思考が求められます。監査とは思考がまったく異なるため、転職後に思考変換ができずになかなか活躍できないケースが散見されます。
監査人としてのキャリアは申し分ないものの、採用面接の段階でコンサル思考の変換が難しいと判断され、不採用に至る場合も少なくありません。この意味でも転職難易度は高いといえます。
M&A業界に興味がある場合は自身の適性も考慮して転職するべきか判断するのがよいでしょう。
【関連記事】公認会計士がM&A業界に転職するメリットや注意点・M&A業界に強いおすすめの転職エージェントまで
PMI業務を経験すると公認会計士としての市場価値を高められ、その後のキャリアパスも豊富にあるため、転職するメリットは大いにあります。
しかし求人はあまり多くないため自力で求人を探すといつになっても希望の求人に出会えません。
M&A関連の職種は秘匿性が高いため企業が非公開にするケースが多く、転職エージェントを利用しないとそもそも求人を見ることすらできないケースも多々あります。
そのためPMIに興味がある場合はまずは転職エージェントに相談することをおすすめします。
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PMIに興味を持たれる方も多いですが、PMIに関与できる求人は多くないため、転職エージェントを利用して探すのがよいでしょう。M&A業界でのキャリアプランについてもアドバイスをもらえるため、まずは相談してみてはいかがでしょうか。
edit_note この記事を書いた人
一般事業会社の経理・財務・CFO候補に加え、監査法人・会計事務所への転職支援サービスも充実。転職成功事例や充実したサポート体制をお約束します。
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